ルビッチ『生きるべきか死ぬべきか』とチャップリン『独裁者』

第二次世界大戦中にアメリカで製作された反ナチ映画の2大傑作といわれる『独裁者』前の記事で書いた『生きるべきか死ぬべきか』を比較してみる。
まず時系列は以下の通り…

1938年3月13日 ドイツ、オーストリア併合
1939年1月1日 『独裁者』製作開始
1939年9月1日 ポーランド侵攻
1939年9月9日〜1940年10月2日 『独裁者』撮影
1940年10月2日 『独裁者』プレミア上映
1941年12月7日(現地時間) 真珠湾攻撃
1941年12月11日 ドイツ、イタリアがアメリカに宣戦布告
1942年○月○日 『生きるべきか死ぬべきか』製作開始
(アメリカが大戦に参戦する直前に作られ、参戦直後に公開という資料もあり)
>>『映画と暮らす、日々に暮らす。』
1945年4月30日 ヒトラー自殺
1945年5月7日 ドイツ無条件降伏

『生きるべきか死ぬべきか』が製作開始された時には『独裁者』はアメリカで既に公開済みであり、多少なりとも影響は受けているはずだ。前の記事にも書いたが、本物と偽物というキーワードが重要であることが共通している。『生きるべきか〜』は時代背景とか国名など実在の世界が舞台であるのに対して、『独裁者』は舞台も登場人物も実在世界のパロディ。(余談だが、チャップリン扮する床屋もサイレント時代の放浪紳士チャーリーのパロディといえるかも知れない。なぜならば、チャーリーのような容姿なのに、言葉は少なめながら声を発して話すし、白髪混じりだし、アメリカ人ではない。)ルビッチの演出する軽快なテンポと間、職人技によって洗練された『生きるべきか〜』に対し『独裁者』は力作ではあるけど、演出面では不器用な部分がある作品だと思う。異論もあるかと思うので、これについては、いずれ書いてみようと思います。『生きるべきか〜』は、洒落た会話とかストーリー自体が喜劇というソフトなコメディで、『独裁者』はシリアスなドラマとスラプスティック・コメディが交錯したというかミックスされた作品。特に第一次世界大戦のシーンは同時期の自身の映画そのままにコマ落としされた早い動きのサイレント・コメディになっている。『生きるべきか〜』はナチスが支配する世界が舞台だが、ナチ打倒というストーリーがメインではない。一方『独裁者』は舞台こそ現実世界そっくりの架空世界だが、ストレートな反ナチ映画。しかも最後には映画の登場人物がチャップリン本人に戻ってしまう。つまり「独裁者ヒンケルの扮装をした床屋」の扮装をしているチャールズ・チャップリン本人が、さながら選挙演説のようにカメラを見て喋る。ストレートな反ナチ映画どころか、監督本人が“素”になって乱入する前代未聞の映画。いや、この時点ですでに「映画」からも逸脱している。
時代背景と笑いのネタが近い作品だが、相違点の方が多いと改めて思った。
ちなみに『独裁者』についてよく言われるのが、製作中に脅迫が相次いだり、中にはヒトラーから直接脅されたという話もあるが、実際にはヒトラーは、側近と『独裁者』を観たことは事実だが、脅迫といった行動をとったという記録はないはず。ドイツとの開戦前にナチスを支持していた当時のアメリカの映画配給業者の一部が圧力をかけたとか、まだ緊迫感が少なかった参戦前のアメリカでは、政治色が強すぎて興行的に難しいということで資金繰りに苦労した、ということではないだろうか。

※ちなみに、最近まで“デタラメなドイツ語”といわれていた、この演説シーンだが
 実際は練りに練られた“ドイツ語と英語の変形ミックス”とも言えるハイパー・ネタだったのだ。
 詳しい解説と“翻訳”は、大野洋之氏の『チャップリン再入門』で読めます。
 長年、アドリブだと思っていたので非常なカルチャー・ショックでした。

※補足1(日本での初公開年)
 『生きるべきか死ぬべきか』1989年
 『独裁者』1960年
 
※補足2
 第二次世界大戦中にアメリカで製作された反ナチ映画は
 『独裁者』『生きるべきか死ぬべきか』の他に、
 フリッツ・ラング監督の『死刑執行人もまた死す』(1943年)があるそうです。
 こちらはコメディではないよいうです。

追記(2010年10月23日)
その他、アメリカ政府の依頼によるディズニーのプロパガンダ映画
『新しい精神』『総統の顔』(どちらも1943年公開)がある。

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by quampaney | 2009-06-14 22:16 | 映画 / アニメ | Comments(3)
Commented by bth3013 at 2009-06-14 22:25
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Commented by m7andy at 2009-06-15 05:36
なかなか興味深いです
チャプリンの独裁者のDVDを持ってますよ。。
しかも著作権の問題前で運良く500円のときに買えた。
あのときにチャプリンの映画買い占めておけば良かったなぁw
Commented by quampaney at 2009-06-15 08:48
> andyさん
低価格DVDやレンタルは、手っ取り早く名作に出会える
チャンスを作ってくれますよね〜。
疑問に思ってるのは「著作権」って
どこからどこまでという線引きが曖昧な気がします。
手軽に鑑賞できる、という反面
粗悪商品も多いですし・・・