小津安二郎の「緑」—その1『浮草』

小津安二郎作品の「色」について考える第3弾(笑)。
よく語られる赤…というより「朱(あか)」
そして晴天の「青」の次は『緑』です。

DVD『浮草』(1959年)のオーディオコメンタリーで、制作当時に美術デザイナー下河原友雄の助手を担当されていた井上章さんが「映画の後半に向かって、緑がどんどん増えて行く気がする」と説明している。しかし、これが計算された演出なのかどうかは分らないとも言う。チェックしてみた。
いかにも夏という空気感たっぷりの映像から物語が始まる。青空や海の「青」は感じられるが、これといって目を惹く「緑」は、船内に置かれた(いつもは朱色の)ヤカンくらいか。しかし、芝居小屋が登場すると次から次へと「緑」が現れる。まず、柱などの建物の塗装が「緑」なのだ。舞台、客席、楽屋や、幟(のぼり)などが全て同じ色。
(冒頭シーンは、船着き場の壁が芝居小屋と同じ色で塗装されているが、外からの光線で白っぽく飛んでいるため、画面上の色調はかなり違う)

※クリックで拡大。他の画像も同じく。
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また、芝居小屋だけでなく、郵便局や飯屋、駅、電車の座席まで全部同じ色調の「緑」が使われている。つまりセットの人為的な着色の「緑」がすべて統一されているのだ。
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※下の2つのシーンではセットと衣装の両方に「緑」が使われている。
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実は、DVDで井上さんが説明する「緑」は、「自然色の緑」と「人為的な緑(塗装色)」を同列に語られているが、この二つは色調も使われ方も違う。
サボテンなど、植物の「自然の緑」と比べて、この映画の「人為的な緑」は少し“青味がかった緑”だという事。それと「自然の緑」は「朱(あか)」と同じように“アクセント”として使われているのに対し、「塗装した緑」は、もっと広い面積に使われている。画面を構成するメインのカラーと言ってもいいくらいだ。
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※右の写真に見える提灯は、もちろん「人為的」に着色した色だが
 アクセントとして使われているので「自然の緑」という色調。
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ピックアップする作業をしていて気付いたのは、“陰(かげ)”になった部分の色調まで緑がかっていたこと。色調は“青味がかった”「人為的な緑」だ。光があまり当たらず“陰(かげ)”になっている壁や、窓の外に見える屋根。照明の効果なのだろうが、どのシーンでも“青味がかった緑”の色をした陰(かげ)になっている。
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この大映作品である『浮草』のスタッフは、照明が伊藤幸夫、撮影は“巨匠”宮川一夫だが、どちらかの指示なのだろうか。セットの塗装色の“青味がかった”緑を、そのまま“明度”を落としたような色調であることから、やはり小津監督の提案や指示があったような気がする。
知れば知るほど、小津映画での色の使われ方というのは、極力シンプルで計画的な「色彩設計」がされているのだと分る。そういう意味では、アニメに近い手法ともいえる。美術スタッフがカラーチャートのような物を使っていたという話は聞かないが、小道具についても、細かい指定をするだけでなく時にはデザインまでも手掛ける小津監督は、きっとスタッフに「色彩設計」に沿った注文を出していたのだろう。

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by quampaney | 2009-11-24 22:27 | 映画 / アニメ | Comments(0)