小津安二郎の「色」/『小早川家の秋』

小津安二郎が東宝で監督した1961年作品『小早川(こはやがわ)家の秋』では
他のカラー作品でも繰り返し登場する“アパート”のドアの色が
「緑」〜「青」ではなく「褐色」系が使われていると書いた。
この“褐色”系、言換えれば「茶色」が多く配置されている点が“異色”だ。
しかもその「茶色」は、年季を感じさせる“濃い”色で、木目は深い。
競輪場までが、似た雰囲気で登場する。
(※クリックで拡大。以下同)
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一軒家のセットに使われる素材については『小早川家の秋』以外の作品では
もっと“つるん”としているし、白木に近い明るいナチュラル塗装だ。
上に載せた画像のうち、“廊下”の写真と比較すれば明らかだ。
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これは『小早川家の秋』の舞台が、主に京都付近だという理由もあるだろうが
クレジットを見て気付いた事がある。
美術には『浮草』と同じ大映の下河原友雄が再び起用されている。
下河原氏の方針なのか、統一された雰囲気のセットが徹底され
法事を行った嵐山の座敷も、小早川家とそっくりな造りだ。
濃い色の木材や簾(すだれ)など、細かい部分まで似ている。
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また、「茶色」系の和服を着た原節子とのツー・ショットが多い司葉子は
同じく「茶色」系であるベージュ色の洋服が多い、というのも面白い。
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他に気になるのはバーの色彩だ。
“娘が嫁ぐシリーズ”3作品では、必ずバーのシーンが登場するが
「緑」や「青」系で塗装された壁面やドアが見られる。
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このバーのセットも『小早川家の秋』は“異色”と言える。
いつもの「緑」や「青」ではペイントされておらず
ナチュラル塗装の“濃い”「茶色」だ。
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※蛇足になるかも知れないが、「紫色」をした起毛張りのバーの椅子。↑
 この「紫」の椅子は、画廊のシーンにもそっくりな小道具として登場する。

このナチュラル塗装の“濃い”「茶色」は
東宝での『小早川家の秋(1961年)』だけに見られるかと思ったが
松竹作品の『秋日和(1960年)』で三人が集まるもう一軒のバーは
『小早川家の秋』と似たような配色だったのは意外だ。
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前記事の最後にも載せた『小早川家の秋』でのオフィスのシーンだが
3本の作品で、同じ様に椅子が登場するシーンがあるので比較してみた。
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あと、『浮草』の記事で触れた“陰”の色調だが
『秋日和』『秋刀魚の味』では『浮草』と同じく「緑」掛かっているが
『彼岸花(1958年)』と『小早川』では“無彩色”だ。
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※この『秋刀魚の味』でのトンカツ屋のシーンを見れば
 意図的に“陰”に色を付けている演出だというのは明確。
 (人物の後ろに見える格子窓からの背景色)
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やはり『小早川家の秋』を色彩(≠色調)に注目してみると
他の作品と比べて“異色”ではあるが
いつもの「緑」と、アクセントの「朱(あか)」は健在です。
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※『小早川家の秋』と『浮草』で美術を担当した“下河原友雄”を検索していたら
 こんな本を見つけたので載せておく。
 『小津安二郎に憑かれた男—美術監督・下河原友雄の生と死』

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by quampaney | 2009-12-30 21:26 | 映画 / アニメ | Comments(0)