小津安二郎『学生ロマンス 若き日』-1

小津安二郎8本目の映画で、現存する最古の監督作品『学生ロマンス 若き日』。監督デビューから僅か2年後の1929年の作品で、スキーを扱っていたり野外撮影でのドタバタ・シーンがあったりと、戦後の小津とは少々趣が違う作品だ。しかし今回観直してみて分かったのだが、すでにこの時点で後年の“小津調”と共通する要素がいくつか見受けられ、ストーリーや映像構成も計算されていて、かなり完成度の高い作品だと思った。

オープニング。俯瞰で東京を映すカメラが徐々に左へ移動して行き、「都の西北」という字幕を挿み、カットを繋ぎながら延々と主人公の住む下宿まで移動(パン?)する。そして窓の障子には「二階かし間」の貼紙。物語が終わったエンディングでは、再び貼紙のある障子窓が映った後、下宿のカットから右(東南?)へ移動して戻り、ファーストシーンの場所で終わる。このエンディングの移動映像はオープニングをそのまま“逆回し”したものではなく、多少端折った編集がされているが、振り出しに戻る物語もといい映画全体が“シンメトリー”な中に収まっている。
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b0183304_217627.jpg同じように“シンメトリー”なカメラ移動が、もう一つあった。
スキー場で行われる「見合い」相手が、自分がナンパした女性と知り渡辺(結城一郎)は落胆し、若き笠智衆を含む仲間二人にコーヒーに誘わて入ったヒュッテ(スキー小屋)のシーン。
まず、小屋の「煙突」が映り、そこからカメラが下方に移動し、小屋の中の天窓の映像に繋る。更に下に移動し、薪をくべる主人公(渡辺)の手が一瞬映る。ストーブの上には、ちゃんと小津印の「やかん」もある。その後、仲間は見合いに参加するため出掛けるが、渡辺は独り見送って残るシーンを挿み、再びストーブに薪をくべるカットへ。今度は上に移動して行き、天窓から煙突のシーンに戻る。

※4月19日:追記
厚かましくマイペースな渡辺が、見合いのショックで大人しくなってしまう、という「折り返し」地点に“シンメトリー”映像を持って来るという様式美が面白い。数学的というか、音楽的というか…。
気になったのは、カメラが上に移動して戻る映像では、あるはずのない手袋が映っている事だ。スキー部員二人はストーブに干してあった手袋を取って見合い見学に出掛けたが、そこから外された後も上方へカメラが昇るシーンでもそのまま残っている。薪をくべるシーンからカメラがストーブに寄っているし、やかんの湯気や煙突の煙も下から上へと自然な動きをしている事から、同じフィルムを“逆回し”にして使ったのではない。撮影時に外し忘れたか、敢えて手袋を残したまま“シンメトリー”に収めたかったのか…。
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この現存する最古の小津作品にも、さっそく「お見合い」が登場するのも面白いが、おなじみ静止画的な風景の「つなぎカット」も3ヶ所登場する。

赤倉にスキーに出掛ける事を決めた渡辺と山本(斎藤達雄)の二人が、障子窓を開け空を眺める。2カット。左を向いて1カット。右を見ると煙突→風見風車→再び同じ煙突。
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渡辺が当てにしていた仕送りが来なく、山本は財布を落とし、出掛ける事が出来ずに部屋からスキー部員を見送った後…
ここは、ほとんど同じシーンと言ってもいいくらい。落ち込んだ二人の様子と二つ目に映る煙突の様子が微妙に違うが、顔の向く順番もつなぎカットの順番も同じ。
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スキーから帰った後のラストシーン前…
いきなり一つ目の煙突が映り、独り窓際でタバコを吸う山本が寒そうに肩をすぼめて右を向く。そして(本来なら)三つ目に映る煙突。右を向くと煙突と風見風車が同じ繰り返し映る。山本が後ろを振り向くと、渡辺に「寒いから窓を閉めろ」と言われる。
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後年の「つなぎカット」とは違うのは、割と短いコマ数しかなく、カットが替わるテンポが速いのだ。しかも、カット毎に映る時間が違う。この奇妙なカット割の不規則なテンポというか変則リズムが私には少々落ち着かない。これも小津自身が意図したリズムだったのか。それとも、コマ数単位で指示を出す事もある晩年と違って、当時はある程度は編集者まかせだったのだろうか。
>>>小津安二郎『学生ロマンス 若き日』-2に続く

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by quampaney | 2010-03-28 21:21 | 映画 / アニメ | Comments(0)