『Power to Believe Tour Box』
Track 10「Message 22」
Robert Fripp, Adrian Belew, Trey Gunn, Pat Mastelotto
※Recorded at Studio Belew,11th March 2002
Assembled by Pat Mastelotto and David Singleton
これは2003年のPower to Believeツアー時に会場で売っていたアルバムで、ツアー・ボックスといっても、1枚のCDと20ページの英語版ブックレットがDVDトール・ケースに入ったもの。コンサートのパンフ代わりとしてのCDで、実際まとまった“曲”といえるトラックはほとんどなく、『パワー・トゥ・ビリーヴ』(以下PTB)の制作過程で完成には至らなかったデモ音源やセッション、インタビュー等が収められている。その中で、ちょっと気になった未発表曲「Message 22」は、'80年代クリムゾンのようなリフを用いた曲。ただしリフは、琴か三味線の様な(以下“邦楽弦”と表記)音色で演奏されているのが特徴で、人によっては違和感を感じるだろう。'80年代といえば、ビル・ブラッフォードの左足側に置かれたシモンズのバスドラで鳴らしていた「チンッ!」と鳴るペダル・ハイハットの代用音があるが、これに似せた音を、2002年のレコーディングで使われていた事は個人的にツボだった。
CDケースの裏ジャケットに「Message 22」について“Assembled by Pat Mastelotto and David Singleton”とある。編集の痕跡は多いが、ProjeKct Xやbpm&m(またはProjeKct3,4)等とは随分と毛色が違う。David Singleton(デイヴィッド・シングルトン)はクリムゾンやProjeKct関連等のレコーディング・エンジアニアという以外よく知らないが、ProjeKct系がセッションの“断片”を編集して曲として構成したものだとしたら、この「Message 22」は、もともと“曲”として形になっていたものを、雰囲気を大きく変えずに加工・編集し直したように思える。拍子が目紛しく変わるのは面白いが、8分音符が1個だけぶら下がっていたり等、あからさまな切り貼りは評価が分かれるところだろう。しかし、よく聴くと“素材”そのものはインプロやジャムでなく、あらかじめ作曲されている音源のようで、完成度は決して低くない。何らかの事情でPTBには収まる場所がなかった曲を、ただお蔵入りさせるは勿体ないと思ったパット・マステロットが「どうせなら!」…と、やりたい放題・好きなように加工した実験作なのかも知れない。聴き始めの頃は、つかみ所のない曲だと思っていたが、変拍子などを数えたりして探っていくうちに少しずつ面白くなり、今では“かなり”お気に入りの曲となった。
※収録内容については、以下のサイトに詳しく載っています。
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King Crimson Data Base
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Fractalism
え〜、ここでまずお断りして予防線を張っておきますが…
私は譜面や音符が苦手です…(^_^;)
もっと言うと、そもそも「1拍」とか「1小節」の意味がよく分かっておりません。
だから、しょっちゅう「エイトビートの1小節は4拍だっけ?」となるし、
“早いテンポの8分音符”と“遅いテンポの16分音符”の区別が付かない時もあります。
あ"ーーーーっ(>_<)、こういう事を考えているだけで頭が痛くなる。
だいたい譜面を見ても、音やリズムがイメージ出来ません。
・・・という訳で、リズム譜とさえ言えないけど、拍子などの構成を自分なりに“図面”にしてみました。ですから、たとえば「8/4」という表記も、「4/4」ではスッキリしない1ブロック(たぶん2小節)のつもり。特に編集段階での人工的な操作が加えられている箇所は、リズムの頭が分かり辛く、そういう所は“数えやすい楽器”を頼りにしました。よって実際にはポリリズムになっている事をスルーしている可能性もあります(+_+)が、全体の“音の長さ”は図面の通りのはずです。
さて、「Message 22」は、こんな感じです…
1.
イントロは、明らかに編集された6/4拍子の邦楽弦リフ。3回繰り返した後は4拍子(表記は8/4)に変わりフィルイン。元はこの拍子で演奏されていたと思われる。そしてPTBでも聞かれたエイドリアン・ブリューの加工されたヴォイスが入る。この曲はヴォーカル・パートが少ない上に全てが電子的に加工された声。しかも大半は歌詞がない。シモンズ風ペダル・ハイハット(図面では△マーク/以下“CH音”と表記)は、イントロでは奇数拍オモテ、その後は偶数拍のウラに変わる。ヴォーカル・パート前半では再び奇数拍のオモテに戻るが後半では偶数拍のオモテ、そして偶数拍のウラ…と変化。そして、リズム・パターンが裏返る奇妙なパートに入る。
2.
バスドラ(茶色の丸/“キック”と書いた方が通じる?)が1拍・3拍の裏、スネア(緑)が2拍・4拍の裏という具合に半拍ずれて裏返ったパートから、3/8を経てミニマル・リフの7/4拍子になる。このあたりなども最初は気持ち悪く感じるが、分かると快感。ここからのリフは邦楽弦ではなく普通にギターの音。7/4の始め4拍は“裏返ったノリ”を引き継ぐが、後半3拍から“比較的”ノーマルな7拍子に。アクセントをずらしたパターンが気持ちいい。“裏返ったノリ”と“アクセントをずらした”ノリの違いは実際に聴かないと分からない(笑)。と言いながら、7拍子の2小節目以降はトレイの弾くWarr Guitarのアタックのせいでバスドラの位置が不明(´・ω・`) 。CH音は前パートの偶数拍ウラ打ちを継続し、その後3/8が入るので7拍子リフからは1小節毎に奇数拍と偶数拍が入れ替わる。ブラッフォードも好んで演っていたパターンだ。4小節目では6拍子になる。
3.
次のヴォーカル・パートでは、前の7/4〜6/4と同じペースでCH音が打ち続けられるので、10/4と次の8/4までは偶数拍のオモテ。途中から奇数拍の裏になり、その後ベース(Warr Guitar)と邦楽弦(フリップのサンプリング・ギター)のパートでは不規則に。クリーム色の丸はCH音に似たヴィブラフォン系のパーカッション。Warr Guitarのメロディーを中心に何となく当てはまりそうな拍子を数えたが、他の演奏とポリリズムになっている可能性もある。だとしたら、完全にお手上げ/(^o^)\
4.
最も分かりにくく数えにくいパート。ここからCH音は奇数拍のウラで10拍、その後は偶数拍のウラを打つ。最後に8分音符1個が余分にあるため、4拍子のパートからは奇数拍のオモテ。そこからの刻みはリズムの頭だろう(…と思いたい)。ヴォーカルが終わり、抽象的なブリューのギター・ソロが静かに始まる。最後が9拍子で次のパートのリフにスムーズに繋がる。
5.
前のパートから続くCH音を、偶数拍のオモテでキープしながらの4拍子に、REDの中間部のような9/8と6/8が組み合わされたギターとベース(Warr Guitar)のリフが乗っかる。4拍子24小節(8/4で12小節?)で収めるクリムゾンらしいポリリズムだが、ラテン系パーカッションの音色も使われている。
6.
静かなパートの最後、4/4の2拍目でCH音は終了。3/8という半端な拍を挟んで、いよいよ後半戦突入のフィルイン。
7.
フリップの邦楽弦リフと、同じくフリップのヴォリューム・ペダルを使った(?)バッキングに、ブリューのギターがウネウネと絡む。ここは4拍子だけで進行する唯一のパート(笑)
8.
ブリューのフレーズがメロディアスになり、途中からベース(Warr Guitar)と共に変拍子を交える。
9.
最後のヴォーカル・パート。後半はターン・テーブルのプレイのようなギクシャクした編集パート。
10.
最終章は、緊張感溢れる3連を交えた邦楽弦のフレーズの後、ベース(Warr Guitar)が先導する変拍子パートがあり、ラストは5連と6連を交えたフレーズで決めて終了。
これを読むと凄く長い曲のように思えるかも知れないが、わずか5分23秒のコンパクトな曲です。
やっぱり、琴や三味線のような邦楽器の音源を使った事で随分とイメージ的に損をしているように思う。上記サイト
Fractalismにも書かれているように、どうしてもチープに聞こえてしまうのだ。普通にロックなギターにしていれば、すんなりとPTBのアルバムに馴染んで無事に収録されたかもしれない。アルバム全体の収録時間も50分ちょっとしかないし…
■King Crimson
『The Power To Believe(2003年)』
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