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乱れる(成瀬巳喜男)

以前にも書いたけど、今年は、意識して昔の日本映画を何本か観た。その中でも溝口健二の『山椒大夫』と並んで気に入ったもう1つの作品が、成瀬巳喜男の『乱れる(1964年)』。この記事を書くために観直してみたのだけど、最初に観た時ほどの時のインパクトがなかった(´・ω・`)
この映画は、それまで思っていた成瀬監督のイメージ、つまり男女の関係を淡々としたタッチで描く、地味な印象というのを変えてくれた作品だったし、まったく予備知識ゼロで観たこともあって、かなり衝撃だったのだ。改めて観直して思ったのは、初回のインパクトの理由には、緻密な設定と脚本の力が大きいという事。

若き加山雄三が演じる酒屋の息子は、仕事もろくにせずにパチンコや徹夜マージャン、バーではケンカ…と、高峰秀子が演じる義姉さんに世話をかけっぱなし。そんな中、町の商店街にはスーパー・マーケットが進出して来る。商売が落ち込んで悩んだマージャン仲間の店主が自殺して…といった感じで、成瀬監督には珍しい「社会派ドラマ」なのかなと思っていた。
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当時40歳になる高峰秀子が演じる義姉は、加山雄三演じる幸司の兄嫁。ドラマの中でも実年齢と同じ設定だ。戦争で未亡人になり人生の疲れがはっきり現れている。義弟のかわりに真面目に店をやりくりしている地味で古風な女性。いつも着物姿。一回り以上も下の幸司の面倒を見ながら彼の将来を心配する姿は、姉というより母親という感じだ。
幸司の親族たちが、酒屋を会社組織のスーパー・マーケットにして生き残る計画を持ち上げる。幸司は、義姉さんを重役にと提案するが受け入れてもらえない。それどころか義姉には、とにかく再婚してもらって体裁よく追い出そうとする。義姉の見合い話もあったりと「仕事」や「家族」がテーマの軸であるかのように進行していく。
ところが、幸司に不良な彼女がいることが知られ、真っ当な人と結婚して真面目に仕事をやって欲しいと願う義姉と口論するあたりから一変。その後は、話のテンポがどんどん加速していき、ラストまで怒濤のように突き進んでいく。
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もう一度、インパクトとか想定外の展開なんてのを求めない状態で観直したら、ひょっとすると世界に浸れるかも知れないな。
しかし、この映画のタイトル凄いね。

脚本:松山善三
   http://ja.wikipedia.org/wiki/松山善三
   高峰秀子の旦那だったのか。

   『人間の條件』『恍惚の人』『人間の証明』
   『名もなく貧しく美しく』で監督デビュー